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札幌地方裁判所 昭和59年(行ウ)16号 判決 1988年10月12日

札幌市白石区東札幌五条六丁目二番一四号

原告

株式会社フィッシュランド

右代表者代表取締役

佐藤友一

右訴訟代理人弁護士

太田三夫

札幌市豊平区月寒東一条五丁目

被告

札幌南税務署長

山本二郎

右訴訟代理人弁護士

斎藤祐三

右指定代理人

榎本恒男

山形武

伊東宣博

斎藤昭三

西谷英二

主文

一  原告の請求をいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が行った次の処分をいずれも取り消す。

(一) 昭和五七年八月二〇日付で原告の昭和五三年七月一日から同五四年六月三〇日までの事業年度(以下、単に「昭和五四年六月期」という。他の事業年度についても同様の例による。)の法人税についてした更正のうち欠損金額一一三〇万六〇四八円(翌期への繰越欠損金額一三八一万〇六二二円)を超える部分(ただし、同五八年一一月一八日付再更正により一部取り消された後のもの)

(二) 昭和五七年八月二〇日付で原告の昭和五五年六月期の法人税についてした更正のうち所得金額一二六万五三一四円(税額三二万二六〇〇円)を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(ただし、いずれも同五八年一一月一八日付再更正及び過少申告加算税変更決定により一部取り消された後のもの)

(3) 昭和五八年一一月一八日付で原告の昭和五六年六月期の法人税についてした再更正のうち所得金額一一六万九三二七円(税額二七万一六〇〇円)を超える部分及び同五七年八月二〇日付過少申告加算税賦課決定

(4) 昭和六〇年八月三〇日付で原告の昭和五七年六月期の法人税についてした更正のうち欠損金額二六六六万四二〇九円(翌期への繰越欠損金額も同額)を超える部分及び過少申告加算税賦課決定

(5) 昭和六〇年一一月一六日付で原告の昭和五八年六月期の法人税についてした再更正のうち所得金額四四四万四七二四円(税額一一四万八四〇〇円)を超える部分及び過少申告加算税再賦課決定(ただし、同決定については同六一年一二月二日付過少申告加算税の変更決定により一部取り消された後のもの)

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、宝石、貴金属、釣具の販売等を業とする株式会社で、毎年七月一日から翌年六月三〇日までを一事業年度とする法人税の青色申告の承認を受けた法人であり、昭和五四年六月期から昭和五八年六月期までの各事業年度の法人税につき別表1に記載のとおり確定申告及び修正申告をしたところ、被告において右各事業年度につき同表に記載のとおり法人税の更正及び再更正並びに過少申告加算税の賦課決定及び変更決定を行ったため、同表記載の経過で適法な不服申立を経由したものである。

2  しかしながら、被告の右各処分は、いずれも原告の所得金額を過大に認定したことによるものであるから違法である。

3  よって、原告は、右各処分について、請求の趣旨に記載の範囲(原告の申告額を超えて所得金額及び法人税額を認定した法人税の更正及び再更正並びに右認定に従い原告に過少申告加算税を賦課する旨の決定)でその取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は認めるが、同2の主張は争う。

三  被告の主張

1  本件各処分は、原告の申告に係る所得金額にいわゆる売上計上漏れが存したので、これを加算したものをもって所得金額としたことによるものである。すなわち、原告の本件各事業年度の所得金額は、原告の申告に係る所得金額に、原告がその事業年度中に顧客から後記の「買替え買戻し保証金」あるいは「預り金」の名目で収受した金員(別表2の(ア)欄の金額)から、後記の保証契約に基づき顧客に返還した金員(別表2の(イ)欄の金額)を差し引いた金額で、原告が所得金額の計算上、売上金額として益金の額に計上しなかったもの(昭和五四年六月期から同五七年六月期までについては、別表2の(エ)欄の金額。同五八年六月期については、同表の(エ)欄の金額から(カ)欄の金額を差し引いた金額。)を、売上計上漏れとして加算した金額であり、本件各処分は、これを基礎として別表3のとおりの計算方法によってなしたものであるから、いずれも適法である。

2  右の売上計上漏れについて

(一) 原告の宝石販売方法

原告は、その取り扱う商品のうち、比較的高額のダイヤモンド等の宝石を販売するに際して、物品税の課税標準となる小売価格に物品税を加算した額の一〇分の一に相当する金額を「買替え買戻し保証金」あるいは「預り金」(以下「本件預り保証金」という。)とし、買主から、小売価格と物品税のほかにこれを加えた金額(以下、この合計金額を単に「合計販売価格」という。)を受領するとともに、買主との間で、一 原告は買主のために将来一定の価格で当該宝石を買替えのため下取りをし又は買戻しをする旨保証する、二 原告は下取り又は買戻しの際本件預り保証金を返還する旨約し(以下、この約定を「本件保証契約」という。)、その約定を記載した「ダイヤモンド永久保証書」「宝石永久保証書」「宝石保証書」と題する書面(以下、これらを単に「保証書」という。)を買主に交付していた。

(二) 原告の本件預り保証金の会計処理

原告は、宝石販売の際に買主から受領した合計販売価格のうち、本件預り保証金相当部分は本件保証契約に基づき将来買主に対して返還することを義務付けられているのであるから、いわば停止条件付返還義務を伴って金銭の授受があったにすぎない等の解釈をとり、これが当該宝石を販売した事業年度の売上ではないとして、各事業年度の決算において本件預り保証金勘定を流動負債の項目に計上し、納税申告に際しても本件預り保証金収入を当該事業年度の益金に含めない処理をしていた。

三 本件預り保証金の性質

(1) ところが、本件保証契約の有効期間が限定されている訳ではないので、原告が買主との間において、一定の時期が到来すれば本件預り保証金を必ず返還しなければならないという関係に立つことはなく(昭和五七年一二月頃より本件保証契約の有効期間を一〇年としその経過によって本件預り保証金の返還時期が到来する旨の約定を記載した保証書が使用されているが、これとて、予め書面による保証契約解約の申出がない限り自動的に契約が更新されることになっている。)、買主が買替えや買戻しを希望した場合にこれを無利息で返還すれば足りるものにすぎない。

(2) また、原告が各事業年度中に宝石販売に際して受領した預り保証金の合計額は別表2の(ア)欄のとおりであるところ、各事業年度中に実際に買主に返還されたものは同表(イ)欄のとおりであって、各事業年度別の受領金額に占める返還金額の割合は同表(ウ)欄のとおり極めて僅少であり、原告が宝石販売を始めた昭和五二年七月頃から昭和五八年六月末までの約六年間に受領した本件預かり保証金総額のうち買主へ返還された割合は僅か約三・七パーセントにすぎないのである。

(3) したがって、原告は、本件預り保証金を受領すれば、他の売上等の収入と全く同様に自己資金として運用することができたのであり、実際にも、本件預り保証金を別途に管理していたことはなく、他の収入と同一口座に入金した上これを営業資金等として運用していたし、昭和五八年六月期と昭和五九年六月期の決算においては、それまで流動負債として計上していた本件預り保証金勘定を取り消して売上に計上する経理操作まで行っているのであって、本件預り保証金は、資金運用上も会計上も原告の任意の処分が可能な状態であった。

(4) さらに、原告が店舗内で宝石の代金として表示している値札(正札)の金額や新聞、テレビの広告で表示している代金は、いずれも本件預り保証金を含む合計販売価格のみであるから、買主が、表示された合計販売価格を支払えば当該宝石を購入することができるという以外に、その合計販売価格のうちの一一分の一に相当する部分については宝石代金ではなく、本件保証契約に付随して原告に預け入れる金員である旨の認識を持つことも困難である。したがって、合計販売価格のうち本件預り保証金相当部分のみは売買代金ではないという原告の扱いは、取引の実態とも著しく喰い違っている。

(5) 以上の事実関係に照らせば、買主が将来必ず買替え・買戻しを希望するとも限らないので、結局のところ、本件預り保証金を返還するという事態は多分に偶発的な事象とみなければならないうえ、実際の返還割合も前記のとおり僅少であるから、本件保証契約の存在を理由として、本件預り保証金授受の際既にその返還債務が発生しているということはできない。のみならず、前記のとおりの原告の本件預り保証金の運用の実態、原告が本件預り保証金を売上計上した事実及び顧客の認識等を総合すれば、本件預り保証金は、まさに宝石の売買代金の一部にほかならないといわなければならない。

3  本件各処分の正当性

(一) 本件預り保証金の性質が前記のとおりであるとすれば、一事業年度中に原告が受領した本件預り保証金合計額(別表2の(ア)欄の金額)は当該事業年度の益金として計上すべきであり、原告が本件保証契約に基づき買主に返還した本件預り保証金合計額(別表2の(イ)欄の金額)は当該事業年度の損金となるから、その差額残高(別表2の(エ)欄の金額)を原告の当該事業年度の申告所得金額(又は欠損金額)に加算すべきこととなる。本件各処分は、右差引残高の加算を基礎とし、別表3のとおりの計算方法によって算出した原告の各事業年度の所得金額(又は欠損金額)を根拠とする適法なものである。

(二) なお、原告は、資本金一億円以下の法人税法にいう普通法人であり、かつ同法にいう同族会社であるから、右一の方法により算出された各事業年度の所得金額に対する法人税額は別表3に記載のとおりであり、差引納付すべき法人税額に対する過少申告加算税額も同表に記載のとおりであるから、本件各処分の計算も正当である。

四  被告の主張に対する原告の答弁及び反論

1  被告の主張に対する答弁

一 被告の主張1のうち、同主張の金額を売上計上漏れとして所得金額に加算すべきことは否認する。

二 同2について

(1) (一)及び(二)の事実は認める。

(2) (三)(1)の事実は否認する。本件保証契約の有効期間は一〇年と定められているのであって、原告は、遅くとも一〇年後には本件預り保証金を返還しなければならないし、それまでの間に、買主から買替えや買戻しの申出があった場合、さらには本件預り保証金のみの返還請求があった場合についてそれぞれの返還義務を負うのであるから、本件預り保証金が将来の返還約束を伴って授受されていることは明らかであるし、その返還時期は必ず到来するのである。したがって、その返還義務は、将来偶発的に発生するものではない。

(3) (三)(2)の事実は否認する。原告が昭和六〇年六月期までの間に顧客に返還した本件預り保証金の割合は、昭和五四年六月期分が一二・四パーセント、昭和五五年六月期分が七・五七パーセント、昭和五六年六月期分が五・四パーセントである。

(4) (三)(3)の事実は認める。

(5) (三)(4)の事実のうち、原告が被告主張のような販売の形態をとっていたことは認める。しかしながら、買主は、支払うべき合計販売価格の一部が本件預り保証金である旨を明示した保証書の交付を受けているのであるから、将来原告に対し、本件預り保証金の返還を求めうることも十分認識しているものというべきである。

(6) (三)(5)は争う。この点に関する原告の主張は後記のとおりである。

三 同3について

(一)については、本件各処分の内訳及び計算方法が別表3のとおりであること、二については、原告が被告主張のような会社であること及び被告の税額の計算が別表3のとおりであることは認める。

2  原告の反論

一 本件保証契約の趣旨

(1) 我が国では、高価な値段で購入した宝石であっても、これを処分する際には著しく低額に見積られるのが通常であり、そのため、宝石を保有していることの経済的利益ひいては宝石に対する財産的信頼は乏しい。したがって、宝石の持つ財産的価値を高め、顧客が安心して宝石を購入しこれを保有することを可能ならしめるには、購入した宝石を比較的高額で処分することが可能でなくてはならず、そのためには、宝石販売業者が買主のために売却済宝石を高額で下取りしたり買い戻す等の保証制度を充実させる必要がある。しかし、一方では、顧客に有利な保証制度を設定すれば、それだけ販売業者が下取りや買戻しの際に負うことになる経済的損失も多大なものとなり、将来資金不足を招いて販売事業の継続及び保証制度の維持が困難となるおそれが生じる。

(2) 原告は、右のような顧客と販売業者との間の利害を調整するため、一方で、販売した宝石を、買替えの際には販売時の価格で下取りするあるいは再評価額で買い戻すという買主に有利な制度を設けるとともに、他方で、販売時に宝石代金とは別途に本件預り保証金を受領し、その返還時期が到来するまでの間これを運用して自己資金を充実させ、原告の経営基盤を安定させることにより右保証制度に信頼性を持たせようとしたものである。

(二) 本件預り保証金の性質

(1) したがって、原告が買主から受領することになる本件預り保証金は、停止条件付返還債務を伴って授受される敷金等と同様に将来返還を要する金銭であり、会計上は預り金にすぎないものであるから、これを当該事業年度の収益として計上する必要はないと解するべきである。

(2) なお、本件預り保証金が宝石代金の一部ではない以上、これについて物品税が賦課されることもありえないところ、実際にも、被告の物品税担当職員は、原告に対する物品税の調査の際、本件預り保証金が物品税の課税標準とはならない旨指導しているのであって、被告の本件における主張は、物品税課税の実情にも矛盾するものである。

五 原告の反論に対する被告の反論

1  原告は、本件保証契約が買主に有利な保証制度であって宝石に対する財産的信頼を保持する上で有益な制度である旨主張するが、現実の下取り価格や買戻し価格は、あくまで買替え・買戻し請求時における原告の再評価額が基準とされており、その再評価額も原告が任意に設定するものであるから、結局のところ、原告の行う保証制度は同業他社の行うそれとさして変わりがなく、格別買主に有利なものではない。

2  また、原告は、本件預り保証金が物品税の課税標準とならない旨の指導を受けたと主張するが、右のような指導があったとしても、それは、本件預り保証金の返還時期、実際の返還率や運用状況等の詳細な調査及び認識を経ないで一時的に行われたものにすぎないのであるから、物品税と法人税の課税の実情に不公正な喰い違いが生じているわけではない。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録にそれぞれ記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

第一請求原因について

請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

第二被告の主張について

一  まず、被告が売上計上漏れと主張する金員の存否について判断するに、いずれも成立に争いがない乙第一、第六、第一〇、第一一、第一五、第一八、第二四号証、いずれも原本の存在・成立に争いがない乙第二五・二六号証の各一・二及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告は本件各事業年度において別表2の(ア)欄の金額の金員を顧客から本件預り保証金として受領していること、各事業年度中に後記認定の本件保証契約に基づき顧客に返還された本件預り保証金の金額は同表(イ)欄のとおりであること、したがって各事業年度末における本件預り保証金の差引残高は同表(エ)欄のとおりであることを認めることができる。甲第七号証、第八号証の一ないし四及び同第九号証の一ないし六(本件預り保証金の移動状況を整理・集計した書面)中には、右認定に反する記載があるが、証人佐藤隆士の証言によれば、右各書面は、本件各処分の効力を争う審査請求手続で使用するため原告の従業員が事後に作成したものであることが認められる上、右各書面の内容も前掲乙第一、第六、第一〇、第一一、第一五、第一八号証のうちの原告の決算報告書中の各事業年度の貸借対照表流動負債項目に計上されている本件預り保証金勘定の数額と合致しないことが明らかであるから、右の記載部分はにわかにこれを借信することができず、他に前記認定を動かすに足りる証拠はない。そして、原告が、本件各事業年度の法人税の申告における所得金額の計算上、昭和五四年六月期から同五七年六月期までについては別表2のエ欄の金額を、同五八年六月期については同表の(エ)欄の金額から(カ)欄の金額を差し引いた金額を売上金額として益金の額に計上しなかったことは、弁論の全趣旨により明らかである。

二  そこで、右認定の被告が売上計上漏れと主張する金員が原告の本件各事業年度の所得金額に加算されるべきものか否かについて判断する。

1  被告の主張2一の事実(原告が本件保証契約を伴う方法で宝石を販売していたこと)及び同二の事実(原告が納税申告の際本件預り保証金を益金としない処理をしていたこと)はいずれも当事者間に争いがない。

2  ところで、法人税法二二条一項にいう「益金」とは、資本等取引以外の資産の販売等の取引に係る当該事業年度の収益であるが(同条二項)、その収益の額は一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとされており(同条四項)、資本等取引以外の資産の販売等の取引により収受した金員であっても、例えば不動産賃貸借契約における敷金のように、将来の一定時期に返還することを義務付けられた上で受領する金員については、それは預り金であって直ちに益金に算入すべきものとはならないとする会計処理の基準が一般に認められていると解される。

したがって、本件預り保証金がその受領されるべき事業年度の益金に算入すべきか否かは、それが将来の一定時期に原告が買主に対して返還すべきことを義務付けられて授受されるものか否かにかかっているものといわなければならない。そこで、以下、項を改めてこの点について検討する。

3(一)  まず、本件預り保証金に係る本件保証契約の内容の詳細をみるに、証人佐藤隆士の証言及びこれにより真正に成立したものと認める甲第一ないし第五号証によれば、以下の事実が認められ、この認定を動かすに足りる証拠はない。

(1) 原告は、宝石販売業を始めた昭和五二年七月頃から同五七年一二月頃までの間は、本件保証契約の有効期間(保証期間)を特に定めなかったが、同五七年一二月頃保証書の様式を変更し、以後、本件保証契約の期間を一〇年間と限定するとともに、期間満了の六か月ないし一か月の間に当事者の書面による解約申入れがない限り本件保証契約が自動的に更新されるとした上で、解約が行われて本件保証契約が終了した際には、本件預り保証金を買主に返還することとした。

(2) 本件保証契約を証する保証書には、原告において買替えのための下取り及び買戻しを保証し、右下取り及び買戻しの際本件預り保証金を返還する旨記載されているのみであるが、原告としては、買主が右保証の利益を放棄した上で本件預り保証金の返還を求めた場合にも事実上これに応じる方向で運用していた。もっとも、このような形で本件預り保証金のみを返還する例は極めて稀であった。

(3) 買主は、宝石購入の際交付を受けた宝石鑑定書又は鑑別書、保証書がない場合及び宝石に損傷等がある場合には、本件保証契約に基づく買替えのための下取り及び買戻しを求めることができなくなるものとされていた。

(4) 買戻し請求があった場合に原告が買主に支払うことになる買戻し価格は、右請求時点において原告が当該宝石を再販売するとすれば小売価格(課税標準の額)となるであろう再評価額の六割又は七割(前記保証書変更の後は五割)であり、買替えのための下取り請求があった場合に原告が買主に支払うことになる下取り価格は、一年以内の下取り請求であれば請求時の再評価額に物品税を加えた額(前記保証書変更の後は、当初の小売価格に物品税を加えた額又は請求時の再評価額)であり、一年経過後の下取り請求であれば請求時の再評価額である。

(二)  そして、右認定の本件保証契約に基づく本件預り保証金の多寡及びその返還の状況等については、第二、一で認定したとおりであり、原告の本件各事業年度中における本件預り保証金の返還の割合(当該事業年度中の返還額を同事業年度中の増加額で除したもの)が、別表2の(ウ)欄のとおりであることは計算上明らかである。

(三)  右認定の事実によれば、原告が本件保証契約上本件預り保証金の返還義務を履行すべき場合としては、買主から買替えのための下取り請求又は買戻し請求があった時、解約申入れによって本件保証契約が一〇年間で終了した時のいずれかであることが明らかであるところ、本件預り保証金の従前における返還状況が、金額的にも、本件預り保証金全体に占める割合からいっても、極めて低調にとどまっていることに照らせば、原告から宝石を購入した買主が将来買替えのための下取り又は買戻しを請求する蓋然性は必ずしも高いとはいえず、全体としてはむしろ買主の買替え・買戻しの希望がないままいつまでも本件預り保証金の返還時期が到来しないという状況が常態であるといって差し支えないというべきである。なお、前記一(2)で認定したように、原告は、買主が保証の利益を放棄して本件預り保証金の返還を求めた場合にも事実上これに応じる方向で運用することとしていたというのではあるが、その実際の例が極めて少数にすぎないことを考えると、右の扱いは右認定に消長を及ぼすものではない。

右のとおりであってみれば、本件預り保証金は、本件保証成立時において、既に、将来の一定時期に返還することを義務付けられて授受されているわけではなく、その返還義務の発生を将来の不確定な事実の成否にかからしめているものといわなければならず、それは益金に算入すべき金員であると解するのが相当である。

(四)  なお、原告の顧問税理士である証人佐田正二の証言中には、買主が将来返還を求めうるものとして原告に対し本件預り保証金を預託しているとの認識を有しているのであれば、本件預り保証金は会計上にいわゆる「預り金」であって益金ではないと解すべきである旨の部分、及び他の業種においては売上類似の収入を「預り金」として計上処理する会計慣行がある旨の部分があるので、この点について付言する。

本件保証契約によれば、買替えのための下取り又は買戻し価格が当初から定まっているわけではなく、結局のところ、原告の再評価に基づいて決定される場合が殆んどであること前認定のとおりであるから、その価格が買主の期待を下回ることも予想される。また、本件預り保証金の実際の返還割合が極めて低率であることも前認定のとおりである。したがって、以上のような事実関係に照らせば、仮に買主において本件預り保証金が返還を求めうる金員である旨認識していたとしても、果たして、買主のうちどれほどの者が現実に本件保証契約上の権利を行使するかは、将来の極めて不確実な事由にすぎないというべきであり、相当多数の買主が右の権利を行使するものと予測すべき合理的理由も乏しいといわなければならない。したがって、原告のような販売方法を採用する企業の収益状況や租税負担能力を計測する上で、本件預り保証金収入を会計上にいわゆる「預り金」であると理解しこれを益金から除外することは、合理的な根拠に乏しいばかりでなく、課税公平の原則にもそぐわないとみるのが相当である。

よって、前記佐田証言を直ちに採用して本件預り保証金収入が益金ではないとすることもできない。

3  以上のとおりであるから、被告が売上計上漏れと主張する金員は益金として原告の本件各事業年度の所得金額に加算されるべきものといわなければならない。

三  そして、原告が資本金一億円以下の法人税法にいう普通法人たる同族会社であること、本件各処分はいずれも原告の申告所得金額に本件預り保証金収入金額を加えた原告の各事業年度の所得金額を基礎として別表3のとおりの内訳・数額の計算により行われたことは、いずれも当事者間に争いがないから、本件各処分はいずれも適法である。

第三結論

よって、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 根本眞 裁判官 石井寛明 裁判官 橋詰均)

別表1

<省略>

別表2

<省略>

別表3

<省略>

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